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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)123号 判決 1989年9月25日

東京都中央区八丁堀二丁目二二番三号商工ビル内

原告

株式会社秀倫

右代表者代表取締役

島村好子

右訴訟代理人弁護士

岩崎精孝

東京都中央区新富二丁目六番一号

被告

京橋税務署長

竹内裕

右訴訟代理人弁護士

高田敏明

右指定代理人

合田かつ子

和栗正栄

藤本和昭

山口新平

内倉裕二

林広志

岡村一重

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日までの事業年度の法人税について昭和六二年三月二七日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額八九七七万二一〇八円、納付すべき税額三九一〇万一二〇〇円、過少申告加算税の額三八八万五〇〇〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の申告、これに対し被告が昭和六二年三月二七日付けでした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)の各内容並びにこれに対する不服申立ての経緯は、別紙一「課税処分の経緯表」のとおりである。

2  しかし、本件更正は、原告の本件事業年度における益金の額を過大に認定した違法があり、これに伴う本件賦課決定も違法である。

3  よって、請求の趣旨1に記載の範囲で本件更正及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  抗弁

1  本件事業年度の所得金額

(一) 申告所得金額 欠損 二五六万五四四〇円

(二) 土地受贈益計上漏れ金額 一億四七一三万三三九三円

原告は、昭和五九年九月一日、島村延壽(以下「島村」という。)から別紙二「物件目録」記載の土地(以下「本件土地」といい、個別には「本件イ土地」のようにいう。)を五二万二一五三円で買い受けたが、右譲受価額は時価に比し著しく低額であるため、譲受価額と時価との差額に相当する金額は、原告に対する島村からの受贈益と認れるものである。

本件土地の時価は、次のとおり一億四七六五万五五四六円と評価すべきであるから、右金額から譲受金額五二万二一五三円を控除した金額一億四七一三万三三九三円が土地受贈益計上漏れ金額となる。

(1) 本件土地が所在する東京都江戸川区平井の地域内にある地価公示法に基づく標準地は、別紙三「比較対象地」の「<1>標準地」欄に記載の四つの土地(以下「本件比較対象地」といい、個別には「本件a対象地」のようにいう。)が全部であるが、それぞれの土地の昭和五九年一月一日を基準日とする公示価格(一平方メートル当たりの価格)及び東京国税局長が定めた昭和五九年分相続税財産評価基準における右各土地に沿接する街路の路線価(前同)は、同別紙の「<2>昭和五九年一月一日の公示価格」欄及び「<3>路線価」欄に記載のとおりであり、公示価格を路線価で除して算出される公示価格比準倍率は同表の「<4>公示価格比準倍率」欄に記載のとおりとなる。

(2) 右(1)の本件比較対象地の公示価格は昭和五九年一月一日を基準日とするものであるので、これを原告が本件土地を取得した同年九月一日の時点におけるものに時点修正する必要があるところ、その時点修正率は、本件比較対象地の同年一月一日を基準日とする公示価格に対する別紙三「比較対象地」の「<5>昭和六〇年一月一日の公示価格」欄に記載の同日を基準日とする公示価格の割合である同表の「<6>公示価格の対前年比割合」欄に記載の数値の平均値を基にして、同別紙の注に記載した月割計算により算出される一・〇一一とすべきである。

(3) 本件土地に沿接する街路の昭和五九年分の路線価は別紙四「本件土地の価額」の「<1>路線価」欄に記載のとおりであり、この路線価を基に相続税財産評価に関する基本通達に定める方法で本件土地の一平方メートル当たりの相続税評価額を算出すると、同別紙の「<2>相続税評価額」欄に記載のとおりとなる。

(4) 右(3)の本件土地の相続税評価額に右(1)の公示価格比準倍率一・六七及び右(2)の時点修正率一・〇一一を乗じて本件土地の昭和五九年九月一日時点における時価を算出すると、別紙四「本件土地の価額」の「<7>本件土地の時価」欄に記載のとおりとなり、その合計は一億四七六五万五五四六円となる。

(三) 右(一)の申告所得(欠損)金額に右(二)の土地受贈益計上漏れ金額を加算した一億四四五六万七九五三円が原告の本件事業年度の所得金額である。

2  本件更正の適法性

原告の本件事業年度の所得金額は右1のとおり一億四四五六万七九五三円であるところ、本件更正における所得金額はその範囲内の一億一三〇七万三六一八円であるから、本件更正は適法である。

3  本件賦課決定の適法性

本件更正により新たに納付すべき税額は四九三九万七六〇〇円であるところ、これにつき国税通則法(ただし、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)六五条一項、二項の規定により過少申告加算税の額を算出すると右税額(ただし、同法一一八条三項により一万円未満切捨て。以下、加算税の計算の基礎となる税額について同じ。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額二四六万九五〇〇円に、右税額のうち五〇万円を超える部分の金額に一〇〇分の五を乗じて算出した金額二四四万四五〇〇円を加算した四九一万四〇〇〇円となり、これと同額の本件賦課決定は適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

1  抗弁1について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)の冒頭の事実のうち、本件土地の時価は争い、その余は認める。

(二)の(1)の事実は認める。

(二)の(2)の事実のうち、本件比較対象地の昭和六〇年一月一日を基準日とする公示価格が、別紙三「比較対象地」の「<5>昭和六〇年一月一日の公示価格」欄に記載の金額であること、本件比較対象地の昭和五九年一月一日を基準日とする公示価格に対する昭和六〇年一月一日を基準日とする公示価格の割合が同別紙の「<6>公示価格の対前年比割合」欄に記載の数値となることは認め、時点修正の妥当性は争う。

(二)の(3)の事実は認める。

(二)の(4)は争う。

(三) (三)は争う。

2  抗弁2、3は争う。

3  原告の反論

被告は本件土地の時価を算定するに当たり本件比較対象地を比準地として選定しているが、その選定理由は本件土地と同一地域内にある土地というだけであって、本件土地との地理的条件の類似性については全く考慮していない。本件比較対象地は、いずれも本件土地に比べてJR平井駅に近く、交通の便が良い等地理的条件が優れている土地であるが、本件イないしへ土地はいずれも荒川放水路の近くに位置している等地理的条件が劣る土地であるところ、地理的条件が優れている土地の公示価格比準倍率は劣っている土地のそれに比べ当然高いものであるから、本件比較対象地の公示価格比準倍率に基づき本件土地の時価を算定するのは合理性がない。

なお、本件比較対象地を参考にして本件土地の時価を算定するのであれば、本件土地は、本件比較対象地の中でも最も地理的条件が劣る本件d対象地よりも更に劣る土地であるから、本件土地の公示価格比準倍率は本件d対象地の公示価格比準倍率である一・四九より低いものというべきであり、本件比較対象地の各公示価格比準倍率の平均値一・六七のうちの加算割合〇・六七を半減した一・三三五とするのが相当である。

第三証拠

本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件事業年度の所得金額

1  抗弁1の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2(一)  抗弁1の(二)の事実のうち、原告が、昭和五九年九月一日、島村から本件土地を五二万二一五三円で買い受けたが、右譲受価額が時価に比し著しく低額であるため、譲受価額と時価との差額に相当する金額は、原告に対する島村からの受贈益と認められるものであることは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件土地の時価について検討する。

(1) 被告は、本件土地の時価の算定方法として、東京国税局長が定めた昭和五九年分相続税財産評価基準における本件土地に沿接する街路の路線価(以下、「相続税路線価」という。)を基に相続税財産評価に関する基本通達に定める方法で算出した本件土地の一平方メートル当たりの相続税評価額に、本件土地が所在する東京都江戸川区平井の地域内にある地価公示法に基づき選定された標準地の全部である本件比較対象地の同年一月一日を基準日とする公示価格を同土地に沿接する街路の相続税路線価で除した割合(公示価格比準倍率)の平均値を乗じて同日の時点における本件土地の公示価格相当額を算出し、さらに、右価額につき、本件比較対象地の同日の公示価格と昭和六〇年一月一日の公示価格とにより、本件土地を取得した同年九月一日の時点における時点修正をして同日の時点における本件土地の公示価格相当額を算出し、右価額に本件土地の地積を乗ずるという方法を用い、これによって算定された価額をもって本件土地の時価としている。

(2) 本件で求める時価とは正常な取引価格を指すものであるが、地価公示法に基づき公示される地価(公示価格)は、都市及びその周辺の地域等において選定された標準地(同法三条参照)について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる一平方メートル当たりの価格とされており(同法一条、二条参照)、実際にも時価に近いものであるが、通常は、標準地の時価をある程度下回るものであり、その意味で堅い評価であるとされていることは、公知の事実である。本件では、本件比較対象地及び本件土地はいずれも東京都江戸川区平井という同一地域内にある土地であるところ、右各土地に沿接する街路の昭和五九年分の各相続税路線価が判明しており(右価額については、いずれも当事者間に争いがない。)、この価額によって右各土地を直接比較することができるから、本件比較対象地の公示価格、同土地に沿接する街路の相続税路線価及び本件土地に沿接する街路の相続税路線価によって算定される相続税評価額を基に本件土地の昭和五九年一月一日時点の公示価格相当額を算出し、これに本件比較対象地の同日及び昭和六〇年一月一日を各基準日とする公示価格の変動を月割計算して昭和五九年九月一日時点への時点修正を施し、これをもって同日の時点における本件土地の時価を算定するという被告主張の方法は、一応の合理性を有するものというべきであり、これによって算定された価格は特段の事情のない限り本件土地の本来の時価を上回ることのないものということができる。

そして、抗弁1の(二)の(1)及び(3)の事実並びに本件比較対象地の昭和六〇年一月一日を基準日とする公示価格、本件比較対象地の昭和五九年一月一日を基準日とする公示価格に対する昭和六〇年一月一日を基準日とする公示価格の割合が別紙三「比較対象地」の「<5>昭和六〇年一月一日の公示価格」及び「<6>公示価格の対前年比割合」の各欄に記載の数値であることは、いずれも当事者間に争いがないところ、この事実に基づき被告主張の方法により本件土地の昭和五九年九月一日時点の時価を算出すると、一億四七六五万五五四六円となる。

(3) ところで、原告は、本件比較対象地と本件土地とは東京都江戸川区平井という同一地域内にある土地ではあるものの、両者は地理的条件が異なるから、両者の比較により本件土地の時価を算定することは相当ではない旨主張する。

確かに、本件比較対象地が本件土地に近接するなど双方の地理的条件等が類似していることについては具体的な立証がないが、本件比較対象地は、本件土地が所在する東京都江戸川区平井の地域内にある公示価格の標準地の全部であるから、それを平均したものは右地域内の標準的な土地と考えることができるところ、この標準的な土地と本件土地とが地理的条件等において比較できないほど異なるとの具体的な事情について主張も立証もなく、かつ、他に適切な本件土地の時価の算定資料が提出されていない本件においては、この標準的な土地の公示価格を基に算出される価額をもって本件土地の時価を算定することは、合理性を損なうとまではいえない。

(4) また、原告は、本件比較対象地を参考にして本件土地の時価を算定することを肯定するにしても、本件土地の公示価格比準倍率としては被告主張の一・六七倍は相当ではなく、一・三三五倍が相当であると主張する。

本件比較対象地と本件土地とが地理的条件等において類似することについて具体的な立証がないが、双方の土地はいずれも東京都江戸川区平井の地域内にあることは先に述べたとおりである。そして、それぞれの地理的条件等の相違によりそれぞれの土地の公示価格及びそれに沿接する街路の相続税路線価の違いが生ずることになっても、公示価格にしろ相続税路線価にしろ、いずれも、一般に、価格形成要素として右の地理的条件等の相違が考慮されて決定された価格であるから、本件土地と本件比較対象地とが前述の同一地域内にあり、かつ、その間に評価要素が全く違うというような事情が伺えない本件においては、双方の土地のそれに沿接する街路の相続税路線価に対する公示価格の比準倍率の数値にあまり大幅な相違は生じないものということができる。そうすると、本件土地の公示価格比準倍率を、本件比較対象地の公示価格比準倍率の平均値と同一であるとした被告の見解は、右特段の事情につき立証のない本件においては、一応の合理性があるとして差し支えない(なお、原告は、本件土地の公示価格比準倍率を一・三三五倍とすべきであると主張しているところ、当事者間に争いがない本件土地に沿接する街路の相続税路線価及び本件土地の相続税評価額を基に、公示価格比準倍率を右の倍率として被告主張のとおりの時点修正を施して本件土地の時価を算定すると、一億一八〇三万五九〇九円となる。そして、これと当事者間に争いのない申告所得(欠損)金額二五六万五四四〇円及び本件土地の譲受価額五二万二一五三円を前提にして原告の本件事業年度の所得金額を算出すると、一億一四九四万八三一六円となり、これは本件更正の所得金額を下回るものではないから、原告の右主張は、そもそもこれのみでは本件更正を違法とするに足りないものである。)。

(5) そうすると、本件土地の昭和五九年九月一日時点の時価は、一億四七六五万五五四六円であるとみることができる。

(三)  右(一)及び(二)の(5)によれば、本件土地の時価一億四七六五万五五四六円から本件土地の譲受価額五二万二一五三円を控除した一億四七一三万三三九三円が本件土地の受贈益となる。

3  右1及び2の(三)によれば、本件事業年度の所得金額は、申告所得金額の欠損二五六万五四四〇円に本件土地の受贈益一億四七一三万三三九三円を加算した一億四四五六万七九五三円となる。

三  本件更正の適法性

原告の本件事業年度の所得金額は右二の3のとおり一億四四五六万七九五三円であるところ、本件更正における所得金額はその範囲内のものであるから、本件更正は適法である。

四  本件賦課決定の適法性

前記一及び右三によれば、原告は本件事業年度の法人税を過少に申告したことになるところ、本件更正により新たに納付すべき税額は四九三九万七六〇〇円であるから、これにつき国税通則法六五条一項、二項の規定により過少申告加算税の額を算出すると、抗弁3のとおり四九一万四〇〇〇円となり、これと同額の本件賦課決定は適法であるといえる。

五  よって、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 佐藤道明 裁判官 青野洋士)

別紙一

「課税処分の経緯表」

<省略>

(注)△は欠損金額を示す。

別紙二

「物件目録」

イ 東京都江戸川区平井一丁目一六八番二

宅地 一三九・四〇平方メートル

ロ 同所一六八番四

宅地 一九四・五一平方メートル

ハ 同所二〇二番

宅地 三五三・七一平方メートル

ニ 同所二〇六番の一

宅地 二九四・五〇平方メートル

ホ 同所二〇六番の四

宅地 三四七・九七平方メートル

ヘ 同所二〇六番の五

宅地 一〇八、六二平方メートル

ト 東京都江戸川区平井二丁目九五一番

宅地 九三・五五平方メートル

別紙三

「比較対象地」

<省略>

注:1÷(101.7-100)÷100×(8÷12)≒1.011(ただし、小数点以下第四位四捨五入)

別紙四

「本件土地の価額費」

<省略>

ただし、本件ロ土地以外の土地は貸宅地であるので、その相続税評価額は借地権割合70%分を減額してお各欄の金額いずれも円未満を切り捨てた金額である。

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